映画『梅切らぬバカ』には「実話ですか?」という疑問の声が多いです。
多くの人が「実話」だと錯覚するのは、自閉症の息子と高齢の母が直面する「親亡き後」の現実や、地域社会との軋轢があまりにも生々しく描かれ、そこに監督自身の経験が色濃く反映されているからです。
本記事では、本作の背景にある自閉症を取り巻く現実の事例や、社会が抱える支援の課題も合わせて解説しています。
映画『梅切らぬバカ』は実話ですか?
映画『梅切らぬバカ』は実話ではありません。
日本が抱える社会問題・監督の経験に基づいて創作されたフィクションです。
映画『梅切らぬバカ』と現実との関連性とは?
- 監督自身の編集経験
- 自閉症の子どもを持つ親の困難
1. 監督の経験
『梅切らぬバカ』は、“監督がとあるドキュメンタリー映画に編集として関わった経験”が反映されています。
以下、和島香太郎監督のインタビューです。
映画『梅切らぬバカ』公式サイト数年前、あるドキュメンタリー映画に編集として関わった経験が反映されています。
自閉症の男性の一人暮らしを描いた映画です。膨大な量の映像素材には、福祉サービスの方や親族との交流が記録されていました。
しかし、隣家の人が写りそうになると、それを避けるようにカメラがブレる。その人は度々苦情を言いに来る方でした。
自閉症を原因とする予測のつかない言動によってトラブルが繰り返されており、隣家との関係は良好ではなかったのです。
しかし、男性が地域の中で孤立していることは見逃せませんでした。
近隣住民の視点を取り入れるために取材を申し込んだこともありますが、出演は断られ、カメラを向けることはできませんでした。
こうした軋轢について、男性のお母様はどのように向き合ってきたのか。すでに他界されていたのでお話を伺うことはできませんでした。
ですが、フィクションであれば近隣住民との軋轢や、出会えなかったお母様の本音を表現できるのではないかと思いました。
共生への願いも含まれていますが、押しつけがましくならないように、ささやかな出来事の積み重ねを描きました。
この「近隣住民との軋轢(あつれき)」や「孤立」というテーマこそが、『梅切らぬバカ』の核となり、物語に実話のようなリアリティを与えていることが分かります。
2. 自閉症の子どもを持つ親の困難
『梅切らぬバカ』の人間ドラマには、実在する社会問題が取り入れられています。
- 社会的偏見と孤立:自閉症に対する社会的な偏見や誤解は、今も根強く残っています。周囲とのコミュニケーションが難しくなることが多く、孤立感を深めることも。
- 支援サービスの不足:自閉症に対する支援やサービスは、地域によって偏りがあり様々です。専門的な支援が必要な場合、経済的な負担も大きくなります。
- 将来への不安:自閉症の子どもの将来についての不安も大きいです。教育や社会での自立、成人後の生活など、長期的な見通しが立てにくいことから、親は常に親亡き後への心配を抱えることになります。
これらのような負担は家族関係にも影響を及ぼします。
自閉症に纏わる悲しい事例3選
映画では、地域社会との温かい交流の兆しも描かれます。しかし、一歩間違えれば、現実はもっと残酷な結末を迎えていたかもしれません。
ここでは、映画の背景にある『自閉症家族が追い詰められた末の悲劇』を3つご紹介します。
これらは、決して他人事ではない日本の現実です。
1. 相模原障害者施設殺傷事件の事例(2016年)
2016年7月に起きた、相模原障害者施設殺傷事件(津久井やまゆり園)の事例です。
事件で長男を失った70代の母親は、悲しみよりも先に安堵したといいます。
その理由は、“もう世間に頭を下げずに済むと思ったから”でした。
この言葉は、介護と世間からの偏見に長年苦しんできた親の極限の心境を表しています。
2. 殺人未遂容疑の事例(2018年)
2018年1月に起きた殺人未遂容疑の事例です。
50代の父親が、自閉症の息子を刺したと110番通報しました。
父親は25年間面倒をみており、自身もうつ病を抱えていました。長期にわたる介護と経済的・精神的負担が、事件の背景にあったと見られています。
3. 福岡・障害児監禁事件の事例(2022年)
2022年に起きた、福岡・障害児監禁事件の事例です。
頼るところがない親を対象に、障害児支援施設の元理事長が、人格を無視した手荒な方法で障がい児たちを施設まで運び監禁していました。
注目すべきは、“元理事長の事件発覚後、約1か月半の間に、利用者681人にのぼる情状酌量を求める声が集まった”ことです。
療育施設が人員不足から閉所し、自閉症の息子の面倒を1人で診ることを余儀なくされた母親も、この施設の利用者でした。
彼女は心身ともに疲れ果てており、“死ぬ前にできることと考えれば、週100万は安い金額だった”と語りました。
この事例は、追い詰められた親たちの支援の切実な不足を浮き彫りにしています。
タイトル『梅切らぬバカ』の意味
本作のタイトル『梅切らぬバカ』は、ことわざの「梅切らぬ馬鹿、桜切る馬鹿」に由来しています。
- 映画のメッセージ: 自閉症の息子を持つ親子を通じ、「その人の特性を理解し、適切な距離で見守ることの大切さ」を、木の手入れになぞらえて表現しています。
- ことわざの意味: 植物の特性(梅は切るべき、桜は切るべきでない)を無視して、誤った手入れをすることを戒める教訓。
映画『梅切らぬバカ』の作品情報
作品概要
| 作品名 | 『梅切らぬバカ』 |
|---|---|
| 公開日 | 2021年11月12日 |
| 制作国 | 日本 |
| 上映時間 | 77分(1時間17分) |
| 監督 | 和島香太郎 |
| 主演 | 加賀まりこ・塚地武雅 |
ストーリー紹介
『梅切らぬバカ』は、“自閉症の成人した息子を持つ親子が周囲の人々とトラブルを起こしながらも、地域社会との関係を深めながら成長する物語”です。
主な登場人物・キャスト
- 山田 珠子/加賀 まりこ:自閉症の成人した息子をもつ母親。占い師の仕事をしている。
- 山田 忠男/塚地 武雅:自閉症の成人した息子。
まとめ:映画『梅切らぬバカ』実話性について
映画『梅切らぬバカ』は実話ではありません。
しかし、その背景には監督が目の当たりにした「地域の孤立」や、多くの家族が直面する「親亡き後」の切実な現実が刻まれています。
後半でご紹介した凄惨な事件の数々は、決して遠い世界の出来事ではありません。劇中で珠子が「私が死んだらこの子はどうなるのか」とこぼした不安は、今この瞬間も日本中のどこかで、親御さんたちが抱え続けている叫びなのです。
本作を通じて、身近な支援のあり方や「心の境界線」について、改めて考え直すきっかけになれば幸いです。